マウルス・マリキータとは?ティンガティンガを代表する画家、その実力と国際的評価
Share
動物画だけではない、もうひとつのティンガティンガ
「ティンガティンガ」と聞くと、ライオン、ゾウ、キリンなど、鮮やかな色彩で描かれた動物たちを思い浮かべる方が多いでしょう。
そのティンガティンガの世界で、まったく異なる方向から独自の表現を築いてきた画家がいます。
Maurus Michael Malikita(マウルス・マリキータ)です。
マリキータが描くのは、動物だけではありません。
市場を行き交う人々、病院、街角、働く人たち、海辺、交通、店。
画面を埋め尽くすように描かれた無数の人物を通して、タンザニアの都市と人々の暮らしそのものを作品にしてきました。
その独自性は海外でも評価され、マリキータはティンガティンガの枠を越えて国際的な展示や美術市場へ進出した作家の一人です。

1988年から続く、約40年のキャリア
マリキータは1967年、タンザニアのナチングウェアに生まれたとする資料が複数あります。
もともとは大工として働き、1988年にダルエスサラームのTingatinga Arts Co-operative Societyに参加。本格的にティンガティンガの制作を始めました。
しかし、マリキータは既存のティンガティンガの様式をそのまま繰り返すことを選びませんでした。
1990年頃から、都市生活や人々の日常を物語のように画面へ描き込む独自の構成を試みるようになります。
このスタイルが顧客から支持され、やがて彼自身を特徴づける表現へ発展したことが、ティンガティンガについての研究・資料でも紹介されています。

マリキータを特別な存在にした「群衆画」
マリキータ作品の最大の特徴のひとつが、画面いっぱいに人々を描き込んだ「群衆画」です。
市場。
病院。
街。
ビーチ。
商店。
そこには何十人、ときにはそれ以上の人物が登場します。
一人ひとりが異なる動きをしながら、画面全体では巨大な一つの都市風景を形成します。
この複雑な構成は簡単に模倣できるものではありません。
ティンガティンガに関する研究資料では、マリキータの群衆表現について、制作に時間がかかり構成も複雑であるため、他の画家が容易には模倣しないことが指摘されています。さらに、彼のスタイルから学んだ画家がいたことも記録されています。
つまりマリキータは、既存のスタイルを受け継いだだけでなく、ティンガティンガの中に新しい表現領域をつくった作家と見ることができます。

第1回マリンディ・ビエンナーレで受賞
マリキータの国際的評価を示す重要な実績が、第1回マリンディ・ビエンナーレ(BI.MA.1)での受賞です。
当時のイタリアの美術メディア「Exibart」は、審査委員会によってタンザニアのM. M. MalikitaがPremio BI.MA.1の受賞者に選ばれたと報じています。
賞には1,000ユーロの賞金、イタリア滞在、さらにミラノのギャラリーで個展を開催する機会が含まれていました。
これは単なる参加歴ではありません。
国際美術展において審査によって選ばれた受賞者であることが、当時の記事から確認できます。
ミラノのギャラリーFabbrica Eosも、マリキータを「第1回マリンディ・ビエンナーレの受賞者」として紹介しています。
2007年、イタリア・ミラノで個展「Pop Mwafrika」
受賞後の2007年11月15日、マリキータはイタリア・ミラノのFabbrica Eosで個展「Pop Mwafrika」を開催しました。
Fabbrica Eosの公式展覧会アーカイブにも、
MAURUS MALIKITA — Pop Mwafrika — 15 Novembre 2007
と記録されています。
さらにマリキータには、1990年代からスイスやイタリアなどでの展示歴があります。
確認できる主な展示歴には、1996年のゲーテ・インスティトゥート(ダルエスサラーム)、1997年のスイス・ゾロトゥルンでの「Art Africain d'Aujourd'hui」、2000年のイタリア・ウンベルティデなどがあります。
つまり、マリキータの海外評価は近年突然始まったものではなく、1990年代から積み重ねられてきたものです。

Google Arts & Cultureにも収録
マリキータの作品は、Google Arts & Cultureで公開されているImago Mundiのコレクションにも収録されています。
掲載されているのは、2013年制作の **Maurus M. Malikita《Untitled》**です。
これは「Googleがマリキータを評価・受賞させた」という意味ではありませんが、国際的なアート・アーカイブの中で作品を確認できるという点で、彼の活動範囲を知る一つの資料になります。
国際オークション市場でも作品が流通
マリキータ作品は、現在ではギャラリーだけでなく国際的な二次流通市場にも登場しています。
美術市場データベースMutualArtでは、マリキータ作品について複数のオークション出品歴が記録されており、2017年には《SCENA DI MERCATO》が1,084米ドルで落札されたとされています。
また、イギリスのOlympia Auctionsでは2024年5月、「Modern and Contemporary African and Middle Eastern Art」のオークションにマリキータの60×60cm作品が出品されています。
イタリアのFarsettiarteでも作品の取引記録が確認できます。
これは、マリキータ作品がタンザニアの観光市場だけで完結するものではなく、現代アフリカ美術の二次市場でも取引対象になっていることを示しています。

日本でも早くから紹介されてきたマリキータ
日本との関係もあります。
2010年1月9日号の『週刊東洋経済』では、マリキータの代表的な市場作品が表紙に採用されたことが確認されています。
また、2011年には街の美容室を描いた作品がSTEAMCREAMの限定缶に採用されるなど、日本でもアート以外の領域へ作品が展開されてきました。
日本でティンガティンガが現在ほど知られていなかった時期から、その特徴的な作品が紹介されていたことになります。
では、マリキータはティンガティンガの中でどのくらい重要なのか?
ここは慎重に考える必要があります。
ティンガティンガには、創始者Edward Saidi Tingatingaをはじめ、初期の画家やその後の世代に多くの重要なアーティストが存在します。
したがって、客観的なランキングが存在しない以上、
「マリキータが現在No.1の画家」と断定することは適切ではありません。
一方で、
約40年に及ぶ制作歴
独自の群衆・都市表現の確立
国際ビエンナーレでの受賞
ヨーロッパでの個展・展覧会歴
国際的なアートコレクションへの収録
欧米のオークション市場での流通
という複数の客観的実績を持つことから、マリキータを「現代ティンガティンガを代表する重要作家の一人」と位置づけることには十分な根拠があります。

「ティンガティンガらしくない」ことが、マリキータの強さ
マリキータ作品の面白さは、一目見ただけでは一般的なティンガティンガのイメージとは違って見えることです。
動物を大きく描くのではなく、人間社会そのものを描く。
しかも単なる風景ではなく、一人ひとりの行動を細かく積み重ねることで、タンザニアの都市の「音」や「熱気」まで感じさせます。
英国Olympia Auctionsも、マリキータについて、周囲の画家がより伝統的なティンガティンガ様式を描く中で、独自の「cartoon style」を発展させ、自らの領域を確立した作家として紹介しています。
伝統を守るだけではなく、その伝統から新しい表現を生み出す。
そこにマリキータの重要性があります。
40年近く描き続けても、まだ進化している
1988年にティンガティンガの世界に入ってから、マリキータは長年にわたり制作を続けています。
市場、病院、学校、港、街。
彼が描いているのは、ある意味でタンザニア社会の記録でもあります。
時代が変われば、街も変わります。
車も、服装も、建物も、人々の暮らしも変わります。
その変化を独自の群衆表現で描き続けてきたことが、マリキータ作品の大きな魅力です。
ART POOLでマリキータの原画を見る
ART POOLでは、マウルス・マリキータ本人が制作したオリジナル原画をご紹介しています。
小さな人物一人ひとりまで描き込まれた作品は、スマートフォンの画面だけではその情報量を十分に感じることができません。
ぜひ拡大して、画面の隅々までご覧ください。
市場で働く人。
荷物を運ぶ人。
会話をする人。
車を走らせる人。
一枚の作品の中に、いくつもの小さな物語があります。
それこそが、マリキータが長いキャリアの中で築き上げてきた独自のティンガティンガです。

ティンガティンガ関連コラム
MALIKITAの作品には、物語が描かれているいる↗︎
マウルス・マリキータが描く幻想のアフリカ ― ティンガティンガアート↗︎
ティンガティンガ・アートの創始者、エドワード・サイディ・ティンガティンガとは?↗︎
ティンガティンガを徹底ガイド!!その歴史から現在ま現在まで↗